東京高等裁判所 昭和30年(う)612号 判決
被告人 加藤一郎
〔抄 録〕
(一)について。
しかし、原判決の判示事実は、すべてその援用する証拠によつてこれを肯認することができる。所論は、原判決がその判示事実認定の証拠として挙示する被告人の司法警察員に対する供述調書は、自白を強要されてできたものである旨主張するけれども、該主張を肯定するに足る証拠は、記録上どこにも見当らない。また所論は、原裁判所が被告人の選任した弁護人があるのに、国選弁護人を選任して審理を進めた点を非難するけれども、記録によれば、本件は、いわゆる勾留事件であるところ、原審の私選弁護人は、適法な公判期日の通知を受けながら、正当な事由なく二囘にわたつて公判期日に出頭しなかつたため、原裁判所において国選弁護人を選任して、審理を進めたものであることが窺われるのであるから、原裁判所の右措置は相当であつて、少しも非難すべきかどがないばかりでなく、原審第三回及び第四回公判期日には、右私選弁護人が自ら出頭して弁論をしているのであるから、原裁判所が不当に審理を急いだため、犯情につき十分取調を受けることができなかつたとの所論は当らない。なお記録を精査してみても、原判決に所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるものとは考えられないから、論旨は理由がない。